ヒグチ カズタカ   Kazutaka Higuchi
  樋口 一貴
   所属   十文字学園女子大学  教育人文学部 文芸文化学科
   職種   教授
言語種別 日本語
発行・発表の年月 2024/07
形態種別 研究論文
査読 査読あり
標題 「司馬江漢の初期花鳥画「鸚哥図」について」
執筆形態 単著
掲載誌名 『国華』
掲載区分国内
出版社・発行元 国華社
巻・号・頁 1545,14-22頁
概要 司馬江漢(1747/48〜1818)筆「鸚哥図」は、この絵師の画業初期の花鳥画である。江漢は江戸時代の洋風画を代表する絵師であるが、若い頃には宋紫石のもとで中国画系統の花鳥画を学んでいる。本稿では、この作品を紹介して江漢の画業に位置づける。また、本図に見られるインコの写生的な表現と、当時長崎に舶載された異国の鳥が日本で図譜に描かれていることとの関連を示唆する。
 本図には円満院祐常門主の賛がある。江漢は1771年頃に宋紫石に入門しており、祐常の没年は1773年であるので、本作品はこの間に制作された江漢最初期の着色花鳥画である。濃彩による写生的な花鳥画、および大気に青い色を与える描き方は、当時最新の中国画法であった沈南蘋の様式であり、日本で流行した。紫石は長崎で南蘋の弟子熊斐と清人画家宋紫岩から学んでおり、本作品に見られる江漢の南蘋画風は紫石から学習したものと理解される。
 画中のインコは実際のショウジョウインコの特徴と一致しているが、江漢はどのようにしてこの鳥のイメージを得たのか、鳥類図譜と比較して考察する。
 長崎の役人高木家は、オランダ船あるいは清船で長崎に舶来した外国の産物を幕府に報告する役目を命じられていた。珍しい鳥獣については絵師に図写させて江戸に送っている。「外国産鳥之図」(国立国会図書館)は高木家が描かせた図譜の写本と推測されるが、その巻頭に背中に黄斑のあるルイチガイショウジョウインコが描かれている。これと一部の図様が重なる「唐紅毛渡鳥写生」(国立国会図書館)は、宋紫石による写本と伝えられている。「唐紅毛渡鳥写生」にショウジョウインコは載録されてはいないが、紫石が長崎で写して持ち帰ったものの中にこれとは別の鳥類図譜が存在した可能性は十分想定できる。このことは、輸入された鳥類と江漢との間に接点があり得たことを示唆している。宋紫石の門人である司馬江漢は、彼の完成した絵画作品とともにこうした図譜を粉本として学びイメージを蓄積していったものと考えられる。