マツダ マリコ
Mariko Matsuda
松田 真理子 所属 京都文教大学 大学院臨床心理学研究科 博士後期課程 京都文教大学 臨床心理学部 臨床心理学科 京都文教大学 大学院臨床心理学研究科 博士前期課程 職種 教授 |
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発表年月日 | 2023/07/22 |
発表テーマ | スピリチュアルケアの臨床的意義 |
会議名 | 第28回日本臨床死生学会 |
主催者 | 日本臨床死生学会 |
学会区分 | 全国学会 |
発表形式 | シンポジウム・ワークショップ パネル(指名) |
単独共同区分 | 単独 |
招待講演 | 招待講演 |
開催地名 | 東京 |
開催期間 | 2023/07/22~2023/07/23 |
発表者・共同発表者 | 松田真理子・高尾直子・前川美行 座長・山田和夫 |
概要 | スピリチュアルケア、スピリチュアリティという言葉が喧伝されて久しく、WHOでは1998年に「スピリチュアル」な健康を加える憲章改正案を提案したが、結局採択には至らなかった。その際、スピリチャルティの意味内容について徹底的な国際比較と統計処理による標準化が試みられたが、そこに付与される意味内容の多様性を浮き彫りにする結果となっている。
宗教家であり臨床心理士・公認心理師である大村哲夫(2022)はスピリチュアルケアの基本は傾聴であり、相手の話をじっくり聴き、相手の置かれている状況を知り、相手の立場に立って受け止めることが相互の関係を築く上で何よりも大切であり、「その人の見ている『世界』を見ようとすること」の重要性を述べている。内科医であり緩和ケアに長年携わっている岸本寛史(2022)はスピリチュアリティとは明確に定義される概念というより、「物語」として捉える方が良いのではないかと述べ、それは「同じ現象に対して複数の異なる意味付けを可能とするようなアプローチ」であり、「唯一の正しい物語」が存在するとは考えない態度をとることだと述べている。 筆者は大学教員として学部生、大学院生に臨床実践教育を行うと共に医療領域や教育療育で臨床心理士・公認心理師として臨床実践に長年に亘り携わせていただいている。臨床現場には人生に行き詰まり、方向喪失状態となり、心の傷を抱えて多くの人々が来談される。心の傷や苦悩は一人ひとり個別の体験であり、多くの人は自分の身の上に起きてしまった出来事を受け入れることができず、苦しんでいる。我々の人生には時として理不尽な出来事や病、苦悩が降りかかって来る。「このようなことが起きなければ良かったのに」と事実をなかなか受容できないことで、さらにもがき苦しむ。起きてしまった事実は変えることはできないが、物事の捉え方を変え、自分なりの物語を紡ぐことができるようになった時、精神科医の加藤清(1996)のいう「苦悩によって煩わされなくなった時、苦悩が苦悩を癒す」という現象が起こることがある。「苦悩が苦悩を癒す時」とはその人の中のスピリチュアリティが目覚める時でもある。スピリチュアリティの目覚めは静かに話を聞き、共に苦しみ、共に悲しみ、共に祈る人が傍らに寄り添っている時である。そして、それは巧まずしてスピリチュアルケアの働きが起こる時である。 |