ホシノ ヨシユキ
HOSHINO Yoshiyuki
星野 佳之 所属 ノートルダム清心女子大学 文学部 日本語日本文学科 ノートルダム清心女子大学大学院 文学研究科 日本語日本文学専攻 博士前期課程 職種 准教授 |
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発表年月日 | 2022/12/10 |
発表テーマ | 藤原定家『六百番歌合』「霞みあへず」詠考―「聞きよからねど此歌にとりては」の評をめぐって― |
会議名 | 和歌文学会 令和4年12月例会 |
主催者 | 和歌文学会 |
学会区分 | 全国学会 |
発表形式 | 口頭(一般) |
単独共同区分 | 単独 |
国名 | 日本 |
開催地名 | 早稲田大学 |
概要 | 藤原定家詠「霞みあへず猶降る雪に空とぢて春物ふかき埋み火のもと」について考察した。六百番歌合出詠に際して右方は「埋み火のもと、聞きよからねども、此歌にとりては強有何事乎歟。不可及難歟」と述べ、判者俊成もこれを追認する。この右方の違和感はこの句の前例がないことによる。
堀河百首で炉火題のもと十六首詠まれたことがよく言及されるが、埋み火詠そのものは、躬恒から道命法師までに基礎が形作られ、後に後冷泉後宮サロンに関わる人々によって掘り下げられた。特に永承四年六条斎院歌合の男の四首と、後拾遺集に入集した素意法師の歌がこの画期を象徴する。 定家はこの前史に対して、アタリの語を斥けてモトを用い、また「空閉ぢて」の他「春物深き」という目立たぬ新規用法を採用することで、「埋火のあたりは春の心地して散り来る花を雪とこそ見れ」(素意・後拾遺・402)といった「部分的な春の内に立つ余寒」から、新しく「冬の中にあって傍らに春を遠く感じとる余寒」を独立させた。右方の違和感と追認はこの事情をよく理解したものである。 一度成立した「埋火のモト」という表現は後に難なく踏襲されていく。なお、母の周忌に法華経七巻に添えた「向かはれよ木の葉しぐれし冬の夜をはぐくみたてし埋火のもと」は着地点の用法で、当該歌とは異なるもの。 風雅集は当該歌と「暮れやらぬ庭のひかりは雪にしておくくらくなるうづみ火のもと」(花園院・878)を収める。花園院詠の前後に「すみがまのけぶりばかりをそれと見て猶みちとをしおのゝ山里」(平貞時)と「うづみ火にすこし春ある心地して夜ふかき冬をなぐさむる哉」(俊成)を置くのは、後拾遺集で素意詠が「みやこにも初雪降れば小野山の真木の炭窯焚きまさるらん」(相模・401)と並ぶ排列を踏まえている。素意を初発とする勅撰集の埋み火詠が、定家を通過して花園院に到るのだという、和歌史の理解を表明したものではないか。 |
researchmap用URL | http://wakabun.jp/r_meeting.html |